はじめに:准看護師がケアマネ(介護支援専門員)を目指す価値
「准看護師として現場で長年働いてきたけれど、キャリアアップの次のステップが見えない」「医療だけでなく、介護分野も含めた利用者さんの一生をサポートしたい」
もしあなたがそう考えているなら、ケアマネージャー(介護支援専門員)**の資格取得は、現状を打破し、キャリアを飛躍させる最高の選択肢です。
准看護師は、医療的な知識と経験を持つプロフェッショナルです。ここに、介護保険制度の知識や、利用者一人ひとりに最適なケアプランを作成するマネジメント能力を意味するケアマネ資格が加わることで、「医療と介護の橋渡し役」という、非常に市場価値の高いダブルライセンス保持者になれます。
しかし、ケアマネ試験の受験資格は複雑で、「准看護師の資格だけでは受けられない」「実務経験の数え方が分からない」といった疑問や不安を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、2018年の制度改正に基づき、准看護師がケアマネ試験の受験資格を得るために必要な**「5年以上かつ900日以上」の実務経験の厳密な計算方法、認められる業務、そしてダブルライセンスのメリット・デメリットまで、徹底的に解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたのキャリアパスが明確になり、自信を持ってケアマネ資格取得へ踏み出すことができるでしょう。
准看護師がケアマネージャー(介護支援専門員)を目指す!基本の受験資格を徹底解説
准看護師がケアマネ(介護支援専門員)試験を受験するために最も重要で、かつ複雑なのが「受験資格」の要件です。
まず、大前提として、ケアマネ試験の受験資格は、大きく分けて以下の3つのルートに分類されます。
- 法定資格保有者ルート(特定の国家資格等に基づき、5年かつ900日以上の実務経験が必要)
- 相談援助業務ルート(特定の相談援助業務に5年かつ900日以上の実務経験が必要)
- 介護施設等での経験ルート(特定の施設・サービスで5年かつ900日以上の実務経験が必要)
准看護師が主に目指すのは、1. 法定資格保有者ルートです。
2018年以降の制度改正のポイント
ケアマネ試験の受験資格は、2018年に大きく改正されました。この改正により、以前は幅広く認められていた「介護業務従事者」の受験ルートが厳格化され、「法定資格に基づく業務」または「相談援助業務」に集約されました。
准看護師の場合、この改正でより明確に「法定資格に基づく業務」の実務経験が求められるようになりました。
| 区分 | 2旧制度(2017年まで) | 新制度(2018年以降) |
| 実務経験期間 | 5年または10年 | 一律5年 |
| 実務日数 | 実務経験期間に応じる | 一律900日以上 |
| 准看護師の位置づけ | 「医療資格」として実務経験5年 | 「法定資格」として実務経験5年かつ900日 |
准看護師に求められる受験要件(法定資格に基づく業務)
准看護師の資格は、新制度における「保健師、助産師、看護師、准看護師」という法定資格に該当します。
したがって、准看護師がケアマネ試験を受験するためには、以下の2つの要件を同時に満たす必要があります。
- 准看護師の資格取得後の期間:5年以上
- 准看護師の資格に基づいた業務に従事した日数:900日以上
つまり、准看護師として働き始めてから満5年が経過し、かつその期間中に実働日数が900日以上あることが絶対条件となります。
【参考】法定資格保有者ルートで認められる他の資格
医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士など、多岐にわたります。准看護師は、これらの資格と並んで「法定資格」として明確に位置づけられています。
受験資格の核心!「実務経験5年かつ900日以上」の厳密な数え方
「5年かつ900日」という要件は、言葉以上に厳密な解釈が必要です。ここを間違えると、受験申請が無効になってしまうため、細心の注意を払って確認しましょう。
実務経験の期間と日数の両方を満たす必要がある
最も重要な点は、「期間(5年)」と「日数(900日)」の両方を満たす必要があるということです。
- 期間(5年): 資格登録日(または免許交付日)から受験を希望する年度の前年度末日までの期間が、満5年間以上である必要があります。
- 例:2020年4月1日に准看護師免許を取得した場合、2025年3月31日以降に実施される試験が受験対象となります。
- 日数(900日以上): 期間中に、実際にその業務に従事した日の合計が900日以上である必要があります。
- 900日の目安: 5年間(約1,825日)で900日ということは、週に3〜4日以上のペースで継続的に勤務している必要があります。
【要注意】パート・アルバイトの場合の考え方
正職員ではないパート・アルバイト勤務の場合でも、実務経験として認められます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 勤務時間の規定: 多くの都道府県では、実務経験の1日としてカウントできるのは「概ね半日以上」または「週30時間以上」など、一定の勤務時間数を設けています。詳細は必ず各都道府県の受験実施要綱で確認してください。
- 雇用形態: 雇用形態ではなく、実際に准看護師の資格を活かした業務に従事しているかが重要です。
【要注意】実務経験として認められない期間・業務
以下の期間や業務は、原則として実務経験の対象として認められません。
- 資格取得前の期間: 准看護師の免許を取得する前の実務経験は、一切カウントできません。
- 研修・休職期間: 育児休業、病気療養による休職期間、または業務から離れた研修期間などは、実働日としてカウントできません。
- 資格に基づかない業務: 准看護師の資格とは無関係な事務作業、清掃業務、送迎業務のみに従事していた期間はカウントできません。**「資格に基づいた業務」**である必要があります。
- 非常勤で極端に日数の少ない勤務: 実働日数が少ないと、期間は満たしていても「900日」の要件を満たせない場合があります。
実務経験として認められる「看護業務」の具体例
准看護師の実務経験として認められるのは、「保健師助産師看護師法第5条に規定する業務」、つまり、医師・歯科医師・看護師の指示の下に行う診療の補助、療養上の世話などの看護業務です。
具体的には、以下の場所での勤務が該当します。
- 病院、診療所、クリニック:入院患者、外来患者への看護業務全般。
- 訪問看護ステーション:居宅での療養上の世話や診療の補助。
- 介護老人保健施設、特別養護老人ホーム:入所者の健康管理、服薬管理、処置などの看護業務。
- 有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住):施設における入居者の健康管理、医療処置。
【完全版】准看護師の実務経験ルート!認められる対象施設・事業所リスト
受験資格の審査において、実務経験として認められるかどうかは、勤務先のサービス種別や事業所の形態によって厳密に定められています。准看護師が実務経験として申告できる主な施設・事業所を確認しましょう。
病院・診療所・訪問看護ステーションでの業務
医療機関での看護業務は、最もスムーズに実務経験として認められるルートです。
| 施設・事業所名 | 業務内容 | 備考 |
| 病院・診療所・クリニック | 療養上の世話、診療の補助(点滴、注射、採血など) | 資格に基づく業務として全面的に認められる |
| 訪問看護ステーション | 居宅での看護業務、ターミナルケア、リハビリテーションの補助 | 介護保険サービス内での業務であり、実務経験として非常に有効 |
| 介護療養型医療施設(現在廃止傾向) | 入所者の看護業務、健康管理 | |
| 介護医療院 | 新たな介護保険施設としての医療・介護サービスの提供 |
介護保険施設での業務
介護保険サービスを提供する施設における看護業務も、重要な実務経験となります。
| 施設・事業所名 | 業務内容 | 備考 |
| 特別養護老人ホーム(特養) | 入所者の日常的な健康管理、医療処置、他職種との連携 | |
| 介護老人保健施設(老健) | 在宅復帰に向けた医療的ケア、リハビリテーションの補助 | |
| 特定施設入居者生活介護(有料老人ホームなど) | 施設内での看護・健康管理業務 | 施設により業務範囲が異なるため、資格に基づく業務の証明が必須 |
| 通所介護(デイサービス) | 利用者の健康チェック、機能訓練の補助、緊急時対応 | サービスの提供時間中はすべて実務経験としてカウント可能 |
【重要】実務経験の対象期間に関する公的情報
ケアマネージャーの受験資格や実務経験の具体的な対象施設、業務範囲については、各都道府県が定める受験実施要綱と、その根拠となる国の基準(厚生労働省令)に準拠します。
実務経験の定義に関する最新かつ最も正確な情報は、厚生労働省の公的な資料で確認することが不可欠です。
💡 ケアマネージャーの資格制度の根拠となる法令や、実務経験の定義の詳細は、必ず厚生労働省の公式情報を参照してください。介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格に関する情報(厚生労働省)
ケアマネ試験の基本情報:難易度・試験科目・合格率
受験資格を満たしたら、次は試験対策です。ケアマネ試験は、その難易度の高さから「難関資格」の一つとされています。
試験の概要と出題範囲(介護支援分野・保健医療福祉サービス分野)
ケアマネ試験(介護支援専門員実務研修受講試験)は、例年10月頃に実施され、出題科目は大きく2つの分野に分かれています。
- 介護支援分野(25問)
- 介護保険制度の基礎知識
- ケアマネジメントの基本
- 法令や通達、基準など、非常に専門的で暗記が必要な項目が多い
- 保健医療福祉サービス分野(35問)
- 保健医療サービス(看護師・准看護師の知識が活きる分野)
- 福祉サービス
- 総合的なリハビリテーション、認知症、精神疾患など
准看護師は、もともと「保健医療サービス」に関する知識を持っているため、この分野では比較的有利に立ち回ることができます。しかし、試験全体に占めるウェイトが大きい「介護支援分野」は、介護保険法を初めとする独自の法令知識が必須であり、重点的な対策が必要です。
過去5年間の合格率の推移と難易度分析
ケアマネ試験の合格率は、例年10%台後半から20%台前半を推移しており、非常に低いです。
| 実施年度(概算) | 受験者数(概算) | 合格者数(概算) | 合格率(概算) |
| 2023年度 | 50,000人 | 11,000人 | 22.0% |
| 2022年度 | 54,000人 | 10,000人 | 18.8% |
| 2021年度 | 49,000人 | 8,000人 | 16.0% |
難易度が高い理由
合格率が低い最大の理由は、各分野でそれぞれ正答率70%程度の合格基準が設けられていることです。
- 介護支援分野で合格基準をクリアしても、保健医療福祉サービス分野で基準に満たなければ不合格となります。
- 逆に、医療分野に強い准看護師でも、介護支援分野の暗記不足で不合格になるケースが非常に多いです。
つまり、どちらか一方の得意分野に頼るのではなく、苦手な介護支援分野をいかに克服できるかが合格の鍵を握ります。
地域ごとの情報収集の重要性
ケアマネ試験は、各都道府県が主体となって実施しており、受験資格の審査や、実務経験の証明書類の様式が地域によって若干異なります。受験を検討する際は、必ず自身の居住地または勤務地がある都道府県の公式情報を確認してください。
💡ケアマネ試験の具体的な出題傾向や、最新の実施要綱、合格基準については、各都道府県の試験センターや福祉保健部局の情報を確認してください。〇〇県(例)介護支援専門員実務研修受講試験の概要と受験要綱
准看護師とケアマネのダブルライセンスが最強な理由
ケアマネージャーの資格は、准看護師のキャリアにどのような変化をもたらすのでしょうか。単なる「資格の追加」ではなく、「市場価値の最大化」につながる、ダブルライセンスのメリットを解説します。
キャリアアップと転職市場での優位性
- 管理職・管理者の道が開ける: ケアマネ資格を持つことで、居宅介護支援事業所や介護施設において、管理者やサービス提供責任者など、マネジメント職への昇進の道が一気に開けます。准看護師としての経験と、ケアマネとしてのマネジメント能力を併せ持つ人材は、組織にとって不可欠な存在です。
- 転職先の選択肢が拡大: 病院・クリニック(医療)だけでなく、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、介護施設(介護・福祉)など、勤務先の選択肢が大幅に広がります。特に「医療知識がわかるケアマネ」は、訪問看護ステーションや医療依存度の高い施設で引く手あまたです。
- 地域医療・介護連携の中心人物に: 退院支援や入退院調整が必要な場面において、医療知識のないケアマネは医師や看護師との連携に苦労することがあります。准看護師ケアマネは、医療者側の視点も理解できるため、地域包括ケアシステムにおける多職種連携の中心人物として活躍が期待されます。
給与アップの可能性と平均年収の変化
資格手当の増加と、管理職への昇進により、年収の大幅アップが見込めます。
- 資格手当: 多くの事業所で、ケアマネ資格に対して月々5,000円〜20,000円程度の資格手当が支給されます。
- 管理職手当: 管理者や主任ケアマネに昇進した場合、役職手当が加算され、年収が50万円〜100万円以上アップするケースも珍しくありません。
平均年収のイメージ(概算)
| 職種 | 平均年収(目安) | 業務内容 |
| 准看護師(一般職員) | 350万円〜450万円 | 現場での看護業務 |
| 准看護師+ケアマネ(一般職員) | 380万円〜480万円 | ケアマネ業務 + 現場フォロー |
| 准看護師+主任ケアマネ(管理者) | 450万円〜600万円 | 事業所の運営管理、指導、ケアマネ業務 |
業務内容の広がりと専門性の向上
ダブルライセンスを持つことで、業務の視野が「点」から「面」へと広がります。
- 看護業務(点): 医療処置、バイタルチェック、服薬管理など、現在の健康状態に焦点を当てた業務。
- ケアマネ業務(面): 身体状況だけでなく、生活環境、家族関係、経済状況など、利用者の生活全体と未来に焦点を当てたサポート計画の立案。
准看護師ケアマネは、看護の専門知識をもってアセスメント(評価)を行うため、他のケアマネでは見落としがちな医療的リスクを早期に発見し、より質の高いケアプランを作成できます。これは利用者や家族からの信頼度向上に直結します。
ケアマネ資格取得後の次のステップ:主任ケアマネへの道
ケアマネの資格はゴールではありません。次の目標として「主任介護支援専門員(主任ケアマネ)」の資格取得があります。
主任ケアマネは、地域のケアマネジメントの質の向上を牽引する役割を持ち、居宅介護支援事業所の管理者になるための要件としても重視されています。
主任ケアマネになるための要件
主任ケアマネになるには、以下の要件を満たした上で「主任介護支援専門員研修」を修了する必要があります。
- ケアマネ実務経験: ケアマネとして概ね5年以上の実務経験(地域差あり)
- 現任研修: 介護支援専門員更新研修の修了
- 推薦: 所属する事業所の管理者等からの推薦
准看護師ケアマネとして、医療的な視点を持った主任ケアマネになれば、その専門性は地域で高く評価され、地域包括支援センターなどでの活躍の場も広がります。
主任ケアマネの主な役割
- 地域のケアマネへの指導・助言: 新しい制度や医療的な知識について、他のケアマネに研修や指導を行います。
- 困難事例への対応: 複雑で多岐にわたる課題を抱える利用者への支援を主導します。
- 地域包括ケアシステムの推進: 医療・介護・福祉の連携強化を図り、地域全体のサービスの質を高める活動に貢献します。
まとめ:准看護師がケアマネを目指すためのロードマップ
准看護師からケアマネージャーへの挑戦は、あなたのキャリアに新たな可能性をもたらします。最後に、目指すべきロードマップを再確認しましょう。
| ステップ | 内容 | 期間(目安) | 重要なチェックポイント |
| STEP 1 | 受験資格の確認 | – | 「5年かつ900日以上」の実務経験が満たされているか、勤務先の事業所が法定資格に基づく業務に該当するかを厳密に確認する。 |
| STEP 2 | 受験申請・手続き | 毎年6月頃 | 各都道府県の最新の受験要綱を入手し、必要書類(実務経験証明書など)を漏れなく準備する。 |
| STEP 3 | 試験対策 | 6月〜10月 | 医療分野に頼らず、介護支援分野(介護保険制度、法令)の徹底的な暗記と過去問演習に時間を割く。 |
| STEP 4 | 試験合格 | 毎年10月頃 | 合格基準点をクリア! |
| STEP 5 | 実務研修の受講 | 翌年1月〜3月頃 | 合格後に義務付けられている87時間程度の研修を受講する。 |
| STEP 6 | ケアマネ登録 | 研修修了後 | 介護支援専門員証の交付を受け、ケアマネージャーとして正式に活動を開始する。 |
准看護師のあなたが持つ「医療」というバックボーンは、利用者さんの暮らしを支える上で最強の武器になります。適切な知識と計画をもって試験に臨めば、必ず道は開けます。この記事で解説した実務経験の要件をしっかり満たし、ぜひキャリアアップを実現してください。

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